外部講師招聘
外的事象を中心とした原子力安全にかかわる国際的な動向(国際標準に関わる活動も含む)について、国内外の専門家講師を招聘し特別講義を実施します。
令和2年度実施内容
令和3年3月9日(火)14時より、防災科学技術研究所 マルチハザードリスク評価研究部門 部門長 藤原広行氏をお招きし、「工学応用を見据えた地震・津波ハザード評価の展開」と題した講演会を実施しました。
講演では、以下の項目を含む地震・津波ハザード評価の現状と課題が議論されました。
- 東北地方太平洋沖地震の教訓、特に、不確かさの取り扱い
- 分野を超えた組織的な研究開発の必要性
令和3年度実施内容
4月15日(木)10時よりAntonio Godoy氏(Antonio R. Godoy Consulting、元IAEA国際耐震安全センター長)による「The safety of nuclear installations against external hazards ? an international perspective from a personal professional experience」と題した講演を実施しました。講演では、「卓越を指向すること(安全文化)」、「自己満足しないこと」、「先延ばししないこと」、「継続的に改善すること」、「偏見をもたないこと」、「他者の判断から学ぼうとすること」、「国際慣行から学ぼうとすること」、「同僚からの評価を受け入れること」、「問いかける姿勢をもつこと」、「自らの立場からではなく知を基盤に発言すること」などの重要性について、IAEAが原子力安全の国際的体系をどのように実現してきたかに関する我が国との関係も含む自身の経験を通して説明され、その後、参加者からの質疑に応じる形で以下の内容を議論しました。
- Godoy氏自身あるいはIAEA安全基準策定において、深層防護概念適用の考え方やリスク論の取り入れなど新しい考え方をどのように取り入れ、発展してきたか?
- 原子力安全において火山噴火の可能性とリスクを考えることがなぜ重要か、また、どのような火山現象が重要か?
- 原子力安全における建築家の役割と重要性は何か?
- 立地段階における外的事象に対する適切な対処が如何に重要か?
- 外的事象に対する継続的な検討による知見を更新する努力と検討結果に基づき迅速な対処が如何に重要か?
6月1日(火)10時よりKevin Coppersmith 氏(Coppersmith Consulting, Inc.)による「Capturing the characteristics of natural hazards using the SSHAC process」と題した講演を実施しました。講演では、SSHACプロセス(NUREG/CR-6372, NUREG-2213)に基づく地震ハザード評価について、以下の内容が自身の経験を通した説明され、その後参加者からの質疑に応じる形で以下の内容などを議論しました。
- SSHACプロセスの歴史
- SSHACプロセスの要素
- 事例紹介に基づくSSHAC概念の説明
- 複数サイトを対象とした2種類のSSHACプロセス(Phased ApproachとIntegrated Approach)と、最近Integrated Approachが推奨される理由(地震動評価モデルにおけるサイト増幅特性の重要性に関する考え方など)
- 火山や洪水ハザードなど地震動以外への適用事例とその重要性
- これまでの経験を踏まえたわが国の実務の今後の在り方
- SSHACプロセスも含めて、専門家判断において(意図的/無意識的なものも含む)認知バイアスを排除しつつ、プロセスを実施するための考え方
- 専門家判断の違いが生じる要因について、特に、パラメータやモデルの技術的に妥当な範囲の幅(range)をハザード評価で明らかにすることの、リスク評価やリスク情報を活用した意思決定における重要性
11月5日(火)9時半よりGreg Rzentkowski氏(元 IAEA原子力施設安全部部長)による「Risk-informed, Technology-inclusive Regulations: General Approach and International Practice」と題した講演を実施した。講演では、個別技術を包括する(technology inclusive)形でリスク情報を活用し、性能を基準(performance-based)とする規制の利点について、自身の経験を通した説明され、その後参加者からの質疑に応じる形で以下の内容などを議論しました。
- Risk-informed technology-inclusive規制における意思決定とその実行が迅速、かつ、時宜を得たものであるための要件
- 原子力安全規制とは、リスクを削減するためではなく、規制要求が総体としてリスクをマネジメントすることに資する形で構成されるべきものであること
- 規制機関やTSO(技術支援組織)には専門家(technical specialist)と専門分野をもつ万能型の人材(generalist)が必要であるが、リスク情報を活用した個別技術を包括した(risk-informed technology inclusive)規制には万能型の人材が重要であり、そのような人材の育成にも資する可能性があること
- Risk-informed technology-inclusive規制は、Prescriptiveな規制と必ずしも対立する概念ではなく、連続的な議論しうること
- Risk-informed規制は、残存リスクの特徴を明確にする効果もあり、敷地外の緊急時への備えにおける要件の明確化の一助にもつながり得ること
- 時々刻々変化し、地域ごとに多様な社会におけるRisk-informed technology-inclusive規制の在り方
- Risk-informed technology-inclusive規制の英国とカナダでの実現の仕方の違いとその利点欠点
- 多様な意見がある社会の中で、原子力安全に関わる研究や規制人材として妥当な意思決定をする上での難しさや留意点
令和4年度実施内容
7月4日(月)17時より田村幸雄氏(東京工芸大学名誉教授、重慶大学教授)による「Effects of Extreme Winds on Buildings and Structures - With Special Focus on Tornadoes and Wind-Resistant Design of Nuclear Power Facilities」と題した講演を実施した。講演では、前半で、強風・突風の成因、強風・突風による構造物の被害について、降雨被害との複合災害も含めて説明がされた。また、強風・突風被害の発生と人的過誤の関係について問題提起がなされた。後半では、規格基準などの標準化の現状と課題について議論された。設計風荷重の評価が、社会的な重要性や被害発生時の社会経済的影響、歴史文化的背景などを施設ごとに考慮した枠組みであるべきことが主張されたのち、具体例を交えながら実務や社会の現状や都合にあわせた非論理的なルール化がされがちであることが説明され、本質から眼をそむけず、論理的に考え、標準化を行うことの重要性が述べられた。そのうえで、安全上重要な施設である原子力発電所の竜巻に対する安全確保に関係する我が国を含めたこれまでの研究、それに基づき策定された現行規制について、米国における標準や原子力安全規制との対比の中で説明され、極めて稀な事象に対して安全上重要な施設の安全性をどのように確保すべきかについて議論がなされた。
講演後、参加者からの質疑に応じる形で以下の内容などを議論した。
- 強風災害に対する対策を強化することで、地震など他のハザードに対する対策とコンフリクトを起こすことはないのか。そのような場合には、どのような協働や調整が必要で、誰がそれを行うのか。
11月14日(月)15時よりVeronique Rouyer 氏(OECD/NEA原子力安全技術・規制課 課長)による「The NEA's contribution to strengthening the global nuclear safety regime after the Fukushima accident and NEA's perspectives」と題した講演をオンラインで実施した。講演では、まず,NEAの使命,原子力安全・規制,核燃料サイクル,廃棄物処分,原子力科学などNEAの活動分野,NEAのこれまでの活動などの組織概要が説明された。次に,福島第一事故を含めた過去の重要な経験には多面的な課題が含まれること,NEAがその知見を政策決定者や公衆に伝えることの重要性が述べられ,また,それらの活動を国際的な枠組みで行うことについて,次の点からその要点が説明された。
- 過去の教訓を将来世代へつなげるためには「今ある課題やその解決策」を伝えるのではなく「なぜなのか?」を明確に説明することが重要で,それがない限り次世代への継承はうまくいかないと考えられること
- 関連する取り組みである福島第一事故後の取り組みをとりまとめた5年レポート,10年レポートでは,人的・組織的要素の重要性に関する認識を含め,事故が世界的な原子力安全の議論に与えた多面的な影響がとりまとめられていること
講演では,福島第一原子力発電所の廃炉と安全解析に関わるNEAにおける国際協調のプロジェクト,原子力安全に関わる国際共同研究プロジェクト,小型モジュール炉(SMR)の安全性など将来の課題に対する取り組みなど具体的なプロジェクトの概要も紹介された。
講演後,新しい世代に規制機関や規制に関わる職業を選択してもらう枠組みを作ることが世界的な課題であること,大学を含めた関係者のNEAとの関わりに関する課題などが議論された。
11月15日(火)16時よりNilesh Chokshi氏(元USNRC規制局エンジニアリング部門 副部門長)による「History of US regulation related to external hazards with emphasis on seismic regulations」と題した講演を東京大学工学部8号館84講義室で実施した。
講演では,知見やツールの進歩、規制委員会の方針、新たな課題への言及の必要性、運転経験、過去の外的事象の経験、規制/推進側および国際的な研究プログラムの進展、政治的環境や議会動向などが規制に影響するという前提が説明されたのち、地震などの外的事象に対する米国における原子力安全規制の歴史について、I. 初期、II. 決定論的枠組みの時代、III. リスク情報を活用した規制の開発と規制への統合、IV. 将来の展望という枠組みで説明された。全体として、「規制、研究プログラム、設計慣行における長年の取り組みを通じて設計基準を超える領域に対する十分な余裕を持った設計体系が実現していること」、「ハザード事象や運転経験、研究、技術発展などから継続的に学ぶこと、規制プロセスがそのような新知見に対して柔軟であることが重要であること」、「偶然的ばらつきと認識論的不確かさの両方に対して一体的かつ一貫性がある形で扱うこと、それにより安定かつ透明性がある規制を行うこと」、「安全/リスクはハザードとプラントの挙動の両面から議論する必要があり、確率論的リスク評価はそのためのツールであること」、「性能規定型のリスク情報を活用した枠組みは将来における確固たる道となること」が述べられた。
講演後、参加者からの質疑に応じる形で以下の内容などを議論した。
- 決定論的評価や確率論的評価など科学的思考が目指すところと、合理的な規制の枠組みが目指すところは異なること。一見複雑に思えるリスク情報を活用した規制という考え方が、どのように産業界や政策決定者を含めて受け入れられてきたかはそのような文脈でその一面が理解しうること。
令和5年度実施内容
5月15日(月)13時30分よりRobert Krivanek氏(元IAEA、現Nuclear Research and Consultancy Group (NRG))による経年劣化管理、長期運転(LTO)、オブソレッセンス対策に関する国際基準、体系的な劣化管理プログラム(AMP)と、LTOに向けた課題に関する3つのトピックについて特別講義を、東京大学・日本原子力研究開発機構連携「原子力安全マネージメント学」講座に協力する形で、対面とオンラインのハイブリッド形式で行った。講義の内容は具体的には以下の3つである。
- IAEA Safety Standards and basic concepts and approaches to ageing management and LTO of NPPs
- Systematic ageing management process
- Challenges of nuclear power plants connected with safe LTO
6月5日(月)15時00分より16時30分までの日程でHans Wanner氏(スイス原子力規制機関ESNI(Swiss Federal Nuclear Safety Inspectorate)前長官、西欧原子力規制者会議WENRA(Western European Nuclear Regulators Association)前議長)による「Periodic safety review and its role in long-term operation of NPP in Switzerland」と題した特別講義を、東京大学・日本原子力研究開発機構連携「原子力安全マネージメント学」講座に協力する形で、対面とオンラインのハイブリッド形式で行った。講義の内容は具体的には以下の5つである。
- Developments to be considered by licensees and regulatory bodies
- Purpose of PSR
- Who carries out PSR?
- Lessons from Fukushima Accident
- Periodic Safety Review in Switzerland
11月27日(月)15時より16時30分までの日程で、Aybars Gurpinar氏(IAEA国際原子力安全諮問グループ(INSAG)委員)による「Nuclear Installations and External Events」と題するオンラインでの特別講義を東京大学・日本原子力研究開発機構連携「原子力安全マネージメント学」講座と共催で行った。講義の内容は次の通りである。
- 外部事象に関わるIAEAの安全基準の全体像
- 地震動ハザード評価におけるSSHAC手法の活用
- 活断層と断層変位ハザード(IAEA SSG-9)について
- 津波リスクについて
- 火山噴火に関わるハザード(IAEA SSG-21)について
- 航空機衝突(IAEA SSG-79)について
- IAEA TECDOC 1791における外的事象の扱いについて