東京大学 「原子力規制人材育成事業」

我が国固有の特徴を踏まえた原子力リスクマネジメントの
知識基盤構築のための教育プログラム

視察と議論

本視察では、年間1~2か所を対象に、講義等の受講者を主な対象に、原子力発電所を対象としたプラントウォークダウンや一般の自然災害現場やプラント周辺の自然ハザードに関わる地点のサイトウォークダウンとしての視察と視察前後に実施する議論を通して、そのエッセンスを理解します。

令和2年度実施内容

2016年熊本地震の震源断層及び周辺の状況の視察を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の影響により断念し、壇一男氏(熊本大学教授)による「地震本部の強震動予測のための「レシピ」の成立過程と課題および研究の方向」と題したオンライン講義を含めた事前準備を行うことで、2016年熊本地震における原子力発電所の耐震安全性評価の課題を議論する機会を設けました。

令和3年度実施内容

2021年10月に1泊2日の日程で熊本視察を行いました。視察では、2016年熊本地震当時の被害状況等を踏まえながら、以下の視察を行い、震源を特定して策定する地震動の評価や課題を含めて、地震被害とその予測・対策の意義を理解しました。

  • 布田川断層におけるスリップパーティショニング(出ノ口断層)
  • 布田川断層による高遊原台地(熊本空港周辺)の傾動
  • 布田川断層(北向山断層)により形成されたプレッシャーリッジ(南阿蘇村立野地区)
  • 旧阿蘇大橋付近に露出した地表断層と変位履歴
  • 南阿蘇村における地表断層の出現と事前の活断層長期評価との関係
  • 旧熊本東海大学阿蘇校舎周辺の地表断層、RC造建物被害
  • 益城町周辺の2条の撓曲および地溝
  • InSARにより抽出された水前寺公園周辺の地表断層(副断層)
  • 立田山断層の活断層地形判読と熊本城天守閣より目視での確認
  • 日奈久断層における余効すべり
  • 布田川断層の地表地震断層、露頭観察、および、過去の変位トレンチ壁面のはぎとり(益城町の平田・柳水地区まちづくり協議会のご協力のもと実施)
  • 木山断層の布田川断層からの分岐および共役断層、および、事前に特定できていなかった地表断層の踏査(益城町上陳・下陳・北向地区まちづくり協議会のご協力のもと実施)
  • まちづくり協議会などにおいて、以上の熊本地震の痕跡や被害を保存し、まちづくりに活かすことに挑戦する取り組み

令和4年度実施内容

2022年8月に福島第一原子力発電所を対象とした視察を実施しました。サイトでの視察と視察前後に実施する演習・議論を通して、廃炉のマネジメントの観点からプラント固有のリスクを評価するための情報を得る方法のエッセンスを理解しました。また、2011年福島第一原子力発電所事故当時の状況、周辺地域における事故影響の大きさと現状について、当時の経験者との議論などと併せて理解しました。

2023年3月に,相模トラフ沿いの地震の津波の痕跡に関する視察を実施しました。大正関東地震により副次的に表れた延命寺断層、離水ベンチ(見物海岸)、津波堆積物の露頭(巴川河岸)、海底地すべりの痕跡(白浜町)、地震ごとの隆起量の違いに起因する大小の段丘群(南房総市千倉町平磯地区および千田地区)、付加体が変形したデュープレックス構造(伊戸海岸)など巡検を行いました。1923年大正関東地震、1703年元禄関東地震など相模トラフの地震を対象に、地震動予測における震源像の多様性や不確かさなどの地震動・津波予測の課題、断層変位と原子力発電所の立地の課題などを理解しました。

令和5年度実施内容

山梨県富士山科学研究所富士山火山防災研究センターのご協力を得て、2023年6月に富士山の視察を行った。視察の参加者は、5月9日(火)に特別講義(座学)を受講し、予備的な知識を得たうえで視察を行った。視察は、溶岩流、火砕流、融雪型火山泥流などの災害の要因に着目して行った。具体的な内容は次の通りである。

  • 富士山5合目から剣丸尾溶岩流とその火口の窪み(割れ目噴火)及び噴火の特徴や滞在者の特性などを踏まえた避難誘導の課題の把握
  • 御庭(4合目)付近の噴火火口列火山地形と御庭奥庭噴出物
  • 富士山科学研究所内の技術展示視察
  • 河口湖フィールドセンターの敷地内にある船津胎内神社の船津胎内樹型
  • 河口湖フィールドセンターの敷地内にある船津胎内神社の船津胎内樹型
  • 貞観噴火による青木ヶ原溶岩流の断面(溶岩樹形など)とその直下の大室スコリア層の観察

柏崎刈羽原子力規制事務所およびオフサイトセンターの視察を実施した。視察では、検査制度の概要などに関する説明の後、管理区域内の高圧注水ポンプ、残留熱除去ポンプ、原子炉格納容器などを視察しながら、Risk-informed、Performance-basedを志向する規制検査に関する現状と今後の展望などを実際の設備機器を前に議論を行った。また、オフサイトセンターを視察し、オフサイトセンター立地の要件や、自然災害と原子力災害の同時発生時などに、原子力規制庁(本庁)や立地自治体などを含めたチームがどのように役割分担を行うかなどについて議論した。

2024年2月に、福島第一原子力発電所を対象とした視察を実施した。サイトでの視察と視察前後に実施する演習・議論を通して、廃炉の安全マネジメントの観点からプラント固有のリスクを評価し、規制する考え方のエッセンスを理解した。